宮本 百合子

 一、今年は珍しく豊年の秋ということで、粉ばかりの食卓にも一すじの明るさがあります。
 一、けさも又早い時間にお話をすることになりました。が、この時間の放送に何か理屈っぽい、云ってみれば教養めいたお話をするということがいつもそぐわなく感じられます。
 一、どんな方でも、朝おきてさてこれから一日の活動にとりかかろうと、その気持で食卓にも向い身じたくもととのえるとき、其々御自分として何か一日の計画をもたない方があるでしょうか。
 一日の計は朝にあり、と世界中で云いふるされています。
 一、そうだとすれば、あらゆる方々が御自分の一日の計をもって充実した気分を保とうと希んでいらっしゃるとき、わきから思ってもいなかった話を注ぎこまれるというのは愉快なことでしょうか。むしろ、落ついて心持のよい音楽でもきいて活動の準備をしたいと御思いにならないでしょうか。
 一、ところで、いま、みなさまのお心にはどんなお考えがあるでしょう。実に様々であろうと思います。
 一、きょうは一つ本を買おう一つ靴みがきをさせようそう思っている方もあればきょうは一つカミソリの刃を買わなければならないと思っている方もあり、きょうこそ一つあの話をものにして、と事業のことを考えている方もあるでしょう。今の瞬間に考えていられることが、きょう一日のうちにその幾らの部分実現されてゆくでしょう。

 十何年か前、友達が或る婦人団体の機関誌の編輯をしていたことがあった。一種の愛国団体で、その機関誌も至極安心した編集ぶりを伝統としていたのであったが、あるとき、その雑誌に一篇の童話が載った。そんな雑誌としては珍らしい何かの味をもった小篇でその作者の小熊秀雄というひとの名が私の記憶にとどまった。北海道から送られて来る原稿ということも知った。
 つづけて二三篇童話がのって、次ぎの春時分の或る日突然その小熊秀雄というひとが家へ訪ねて来た。その雑誌の編輯をしていた友達と私とは、小石川の老松町に暮していたのであった。
 小熊さんはそのとき北海道の旭川であったか、これまでつとめていた新聞をやめて上京して来たわけであった。やっぱり特徴のある髪の毛と細面な顔だちで、和服に袴の姿であった。そして漂然としたような話しぶりの裡に、敏感に自分の動きを相手との間から感じとってゆこうとする特色も初対面の印象に刻まれた。丁度どこかへ出かけるときで、小熊さんも一緒に程なく家を出た。
 それから何年経っただろう。次ぎに小熊さんに会ったのは一九三一年ごろで、小熊秀雄さんを、小説の部門に私を包括して、その文学の歴史の波が再び互を近づけたのであった。

第一の精霊 サテサテマア、何と云うあったかな事だ、飛切りにアポロー殿が上機嫌だと見えるワ。日影がホラ、チラチラと笑って御ざる。
第二の精霊 アポロー殿が上機嫌になりゃ私共までいや、世の中のすべてのものが上機嫌じゃがその中にたった一つ嬉しがりもせず笑いもせなんだものがあると気がるなあの木鼠奴が通りすがりの木の枝からわしに声をかけおった。何じゃろ、今日のよな日のあてものにはもってこいと云うものじゃ……
第一の精霊 嬉しがりもせず笑いもせなんだ? 一寸思えばうす暗い中にうごめいてござるプルートーかさもなくば――ものがもの故あとが一寸はつづかぬワ、マいずれその近くに違いあるまい。
第二の精霊 コレ、若い人、何をそのよにだまってござる。年はとっても私等はこの通りじゃ。とりのぼせぬまでにうかれるのも春は良いものじゃワお身の唇はその様にうす赤くて――はたから見ても面白い話が湧いて来そうに見える。口あくと歯にしみる風は願うても吹いては居ぬ、サ、今のあてものでも云って見なされ下らない様でも面白いものじゃ。
第三の精霊 私しゃ考えて居るのじゃ。
第一の精霊 とは御相拶な、考える事のなさそうなお身が考えて居るとは、――今のあてものかそれともほかの事かな。
第三の精霊 自分の事を考えて居るのじゃ。あてものよりもむずかしいものと見えて、すけをたのみたいほど迷って居るワ。
第二の精霊 自分を? 若い人には有り勝な事じゃワ、自分の心を機械かなんぞの様に解剖をしてあっちこっちからのぞくのじゃ。あげくのはてが自分の心をおもちゃにしてクルリッともんどりうたしてそれを自分でおどろいてそのまんま冥府へにわかじたての居候となり下る。妙なものじゃ。

<PR>
厚生労働省

できてしまったシミ用の美容クリーム~プラスキレイ プラスナノHQ

赤ちゃんにも安全なおすすめの暖房器具